地球科学を大きく前進させた日本発の理論『プルーム・テクトニクス』、および地震波の解析について、紹介します。この理論は、地球内部における地震波の伝播の違いを精密に測定する「コンピュータ・トモグラフィー(地震波解析)」技法の進展によって得られたもので、日本人によるオリジナルな研究の成果です。

 プルームは間欠的に起こるマントル対流を意味し、テクトニクスは地球の構造運動を表すモデルです。プルーム・テクトニクスは、プレート・テクトニクスを含むマントル対流を表すモデルで、現状では、最も多くのことを説明可能なモデルです。 


 プレートの境界は圧縮場なので、境界面に逆断層が発生します。

 海溝より海側では、沈み込む海洋プレート=スラブのうち、浅い層は引張場なので正断層、 深い層は曲げによる圧縮場なので逆断層が発生します。
 海溝より陸側では、スラブは陸側プレートの深部に沈み込んで行きます。スラブの下部は、圧縮場となって逆断層が発生します。それより上部のスラブでは、 プレートの重みで海洋プレートが引きちぎられるような力が加わると、正断層が発生します。

 陸側の深部に沈み込んだスラブは、スラブ内の間隙水圧の上昇により、脱水反応が起きます。冷たい間隙水がプレート境界の滑り面デコルマ面などを通って湧出すると、地滑りが発生しやすくなります。また、この水が陸側のマントルの一部を溶かしてマグマを発生させます。
 
 沈み込んだスラブは、陸側のマントルよりも低温な含水層です。スラブの主成分である低温の玄武岩は、低温では相転移【注4】しにくいため、密度が小さいままマントル遷移層【注1】に浮かぶように、一旦滞留します。
 この滞留するスラブ=スタグナント・スラブ(またはメガリス)は、日本列島の地下にもあり、マントル不連続面【注2】の直ぐ上に、長さ2,000km 以上に亘って横たわる冷たい構造です。
  下図は、『
スタグナントスラブを知り、マントル対流の新シナリオをつくる』 深尾 良夫氏( 海洋研究開発機構・地球内部ダイナミクス領域・領域研究代表者)より引用。
 
StagnantSlab_Fukao 一方、スラブ内の橄欖岩は、相転移【注4】が進み、玄武岩の「浮き」に対抗する「錘」の役をします。
 時間が経つと、冷たかった玄武岩も陸側のマントルで温められて、相転移が進み、「錘」に変わります。
 一定時間が経過すると、「浮き」と「錘」のバランスが崩れ、マントル遷移層【注1】に滞留していたスラブは、下部マントルへと崩落して行きます。
 この
下部マントルへと下降するマントルの流れを、コールド・プルームと呼びます。コールド・プルームは、 密度が大きくなったために、下部マントルの底=D”層【注3】まで達して堆積します。

  コールド・プルームが、マントル最深部のD”層まで達して外核を冷やすと、その反動で、流体である外核の活動が盛んになり、 D”層の別の場所が暖められて、ホット・プルームの上昇が起きる、と考えられています。

  ホット・プルームは、マントル物質(橄欖岩)が細い管のような状態で上昇してゆく流れです。上昇流の最上部は、キノコのような形状をしており、巨大なキノコの傘の部分に、温かいマントル物質が溜ります。そこから、枝分かれしたマントル物質が上昇します。
 
 
マントル物質の流れが直線的な割れ目に入っていけば、中央海嶺になります。キノコからそのままマントル物質が上昇すれば、活動域が最大1000kmに達するような超巨大火山を形成します。海嶺も巨大火山も、「南太平洋スーパー・プルーム」のように、巨大なマントル溜りがあるため、活動期間は1000万年から数億年に及ぶこともあります。

 現在の地球上で、 ホット・プルームが上昇しているのは、ハワイやアイスランドなどのホット・スポットです。巨大なスーパー・プルームの上昇は、過去には超大陸の分裂を惹き起こしたり、大量のガスを放出して気候変動の原因になったこともありました。

 ホット・プルームは、10億年前の海洋プレートに由来するという説もあります。この説の場合、沈み込んだ海洋プレートが、コールド・プルームとして下降し、D’’層として長らくマントルの底にあったものが、10億年の時を経て、地表に戻ってきたことになります。

 また、  コールド・プルームとホット・プルームの上昇は、約1億年周期で起きるのではないか、という説もあります。1 億年ほど前(白亜紀前期)には、数千万年に亘って全く、地磁気逆転がありませんでした。この時代、プレートの移動が早く、火山活動が活発で、地球は非常に温暖な気候でした。この時代に、スーパー・プルームの上昇があったのではないかと推測されています。

 【注1】マントル遷移層は、地震波速度が深さと共に急増する場所で、上部マントルと下部マントルの境界に位置し、深さ 410km~660km にあります。
 【注2】マントル不連続面は、マントル遷移層【注1】の最下部の深さ 670km にあり、20万気圧、1400℃です
 【注3D”(ディー・ダブル・プライム)層=コア・マントル境界は、下部マントルと外核の境界に位置し、深さ2700km にあります。ここは、下降してきた海洋スラブの溜まり場です。
 【注4】相転移は、水(液相)⇔氷(固相)水蒸気(気相)のような、物質の性質の外的要因による変化を指します。マントル不連続面【注2】までの上部マントルの構成物質は、深さ 410km、520km の境界を移動する毎に、オリビン(α相)変形スピネル相(β相)スピネル(γ相相転移し、結晶構造が変化、密度も変化します。
  
 上部マントルの主成分であるペリドタイト(橄欖岩、(SiO2 , MgO, FeO)より成る)は、オリビン(橄欖石)が主体ですが、水と高圧の関与により、オリビン( (Mg,  Fe)2 SiO)⇒スピネル( (Mg, Fe) Al2O)の相転移 【注4】 が生じます。
 オリビンからはペリドットと呼ばれる黄緑色の宝石、スピネルは赤・青・紫・ピンクの宝石を産出します。

【参照】スタグナントスラブ 〜マントルダイナミクスの新しいキーワード〜
                              海洋開発研究機構 地球内部変動研究センター   深尾 良夫
                                              < http://www2.jpgu.org/publication/jgl/JGL-Vol2-2.pdf